名にし負う硬派の経済雑誌である。
11月26日号は、「さらば! スキルアップ教 教養こそ力なり」という相当力をいれた特集であり、これを読むのが目当てだった。面白い記事が満載であり、教養 実践編とあって、「教養人になる方法」といって、沢山の文献があげられている。本が嫌いなタイプの就活生だったらげんなりかも知れないが、とにかくがんばって基礎文献を読み進もう。もっともこの程度の読書で教養人になれるならそれほど苦痛でない。コストパフォーマンスは極めて高い。
編集部による文献目録は概ね納得いくもの。また、専門家の推奨本もそれに続いてある。私的には概して理系啓蒙書の推薦図書目録がおもしろく、納得いく。未だ読んでいないものもチェックできる。自分の専攻の政治だとかになると「ウーン、そうかな」と、当然クレームをつけそうになる。「専門家」のクセであり、意地悪である。推薦者となった方々もしかし手っ取り早く何冊かの本をあげてください、「教養人に」みなさんなれるようになどと編集部から言われても、さて...と困ったことだろう。
しかし、これが本特集の眼目なのだろうが、佐藤留美氏や浅川港氏らのビジネス現場に即した歯に衣着せぬ記事には教えられることが多い[「ブームをあおった私:スキルアップ教は日本人を幸せにしたのか?」「ベストセラーに見る米国人の教養:堅実な米国人の知的関心 次のキーワードは「例外主義」」]。
就活生は是非これらの特集を読んでみるべきだろう。そして早速、積極的な読書生活の大海に向かうべく、大学生協や街の書店に走ってゆくべきだ。
それにしても大学らしい授業やセミナーがどれだけ尊重され、ああ、進学して良かったとどれだけの学生諸君が実感している事であろうか。教員は自己評価の書類に追われ、予算取りに煩瑣なプロポーザルを終日書かなければならない。本当に必要な研究は、---これは私個人の恨みもあるが---若手への補助金だけで可能になるのか。ほとんどの研究予算が40歳までの若手研究者に限るなどという、注釈がついている。若手重視はわかるが、若手だけで研究が成り立つわけではない。必要な場合は審査によりこの年齢枠を越える場合も許可することがあるなど、緩和条項が全く見当たらない。官僚的論理が科学の諸研究[社会科学、人文科学、自然科学など]を引きずり回す感があるのはいただけない。
わたしなど、地方分権=フランス政治研究というスタンスがはっきりして、文献収集の上でも見通しが出来たのはひどく遅くなってからだ。現在の研究費配分のシステムでは円熟した研究者[あるいは私みたいな“おくて”の研究者]に十分な資金が渡らない。そもそも講座あたり数百万の図書費が左右できるならいい。しかし、そんな研究者は実際ほとんどいないのではないか。
外国研究の細切れぶりと窮屈な仕切りは、我が国の国際路線の開拓[あえて策定とはいわぬ、高度にクリエイティブな仕事だ]を困難にしている。
フランスにおける外国研究の手厚さをおもえば、我が国の遅れは深刻だ。
世界第二か、第三の経済大国が、平和路線で国際社会に重きをなすべきである。諸国から尊敬される国造りこそ就活生をふくめた私たちの目的なのである。いうまでもなく世界の枠組みが動揺し、組み換えられようとしている。構造的変化をしっかり捉えるには、知のおおもとに立ち返る古典的かつ原理的な思考が必要である。
そして、この理念にたった事業は、有力にして多数の高等教育機関の存在を前提にしている。立派な高等教育機関を国民的なコンセンサスの元に確立してゆくべきだ。まさに、呪文みたいなスキル万能から真の教養を身に付けることへの旋回のときである。これは、ひとりビジネス関係者や就活生の問題などではないのだ。
『週刊 東洋経済』特集号の表紙 |
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