愛媛大学地域創成研究センターが年5回の割合で催している「地方分権問題学習会」を傍聴する(2010年7月1日)。今回の報告者は滋賀大学経済学部の 宇野隆俊氏であった(以下、氏の報告レジュメおよび私の聞き取りメモから。筆者の専攻はフランス地方政治であり、専門外の事だったので、理解が十分でなかったかもしれない…)
県下の自治体職員や教員が参加して、定刻にはセンターのセミナー室が満席となった。
論題は「「平成の市町村合併」と都市内分権〜上越市の地域協議会の試み〜」というものであった。
宇野氏が行われた報告そのものと、その際に配布された資料を紹介しつつ、感想を記しておこう。
全体として、「都市内分権」というタームがキーワードとなっており、「基礎的自治体をいくつかの区域に分け、それぞれの区域のなかに自治体議会とは別個の意思決定の場を置き、ここで当該区域に関わる一定範囲内の公共的な課題を議論し、合意に至った決定に公的な拘束力を持たせようとする構想」であると基本コンセプトが示されていた。
改正地方自治法では、地域自治区や地域協議会の仕組みとして示されている。これは市町村合併による「遠くなる自治」すなわちフランスなどでの言い方では「近隣性の喪失ないし危機」に対応して、行政側としても「身近な地域社会」を法制的にも保障し、活性化しようとするものであろう。
具体的には氏の調査された上越市の事例が詳しく紹介された。
ここでは、ざっと見て中学校区にあたる旧町村規模の地域自治区が形成され、審議機関としては地域協議会がおかれ、旧町村役場の小型版として地域自治区事務所が置かれた。
合併前の旧上越市は、15の区に分けられ、合併前の旧町村はそのまま13の区になった。都市域と周辺地区との人口力の差異が目立った(合併前の上越市高田区では、3万の住民がいるのに、おなじく北諏訪区では1695人、旧13町村基盤の区では、大島区の2098人と云う風に人口の差が極端である)。
委員は準公選制で、民意を受けて市長が任命する。これによって「委員に一定の代表制と正統性を与える制度」であると氏は説明されている。
地域協議会の権限は第一に市の側からの諮問に対して答申し、第二に必要と判断された事項については自主的に審議し、市長はじめ市の側に意見を述べうる。
自主審議は報告を聞いた限りでは活発に行われているようである。また、市長の側も年間2億円の資金を投入して、「上越市地域活動支援事業」への提案を募集し、採択基準の策定に各地域協議会が積極的にコミットしているとのことであった。採択された案件は、NPO、個人、自治体に実施方を委嘱することが可能であるという。新しい公共の創出という意味からも注目すべき展開である。
都市部の住民の中には公共的な予算を市議会の統制が及ばないかたちで費消することへの抵抗感があるという。旧町村の指導層がくわわった地域自治区による公的資金の使い道の透明化がどの程度しっかりと区分けされ、良い意味での「近隣の民主主義」が確実な内容を備えるのか、上越市などの実践例の今後の展開は興味深いものがあると思った。
また逆に、専攻としているフランス・サルコジ政権下での地方行政改革のうち、特にコミューン統廃合の動きを理解する上からも、重要な論点が沢山見いだされたことを付記しておきたい。
質疑応答では実務家を中心に沢山のコメントを聞くことが出来た。調査活動を展開されているベテラン教員の指摘も興味深いものであった。
全体として、地域活性化にかかわるNPOの運営上も、こうした地方自治最前線からの実態報告は、深く大きな領域がそこにあるという強い想いを私たちに投げかけるものだった。
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